来客応対を終え、進路相談室に戻ってきた教師暦2年の上甲を、先輩教員の薮中が出迎えた。
「お疲れさーん。教材セールスへの応対もなかなかめんどくさいもんだろ」
「そうっすね。てか僕みたいな何の権限もない人間が出ちゃっていいんですか?」
「いいのいいの。どうせ断るのは誰がやったって同じなんだし」
「……それってヤな役回りを若いのに押し付けてるだけじゃないですか」
「ハハハ、流石はK大卒。理解力があるな。で、結局何のセールスだったんだ?」
「何か高校生の就業意識を啓発するビデオ教材とかいうものでした。一応サンプルということで無理やり1本渡されましたが」
そう言って上甲は、ケースに入っていない剥き身のビデオテープを薮中に手渡した。
「でもあの業者、うちの学生の就職率知ってるんですかねー。根っからの進学校にそんな就職ビデオだなんて」
「いやいや、若いうちから就業意識を持っておくに越したことはないぞ。だいたい昨今の学生はそういった意識が薄すぎるんだよ全く」
薮中が今にも説教モードに突入しようとしたところで、上甲は慌てて話題を挿げ替えた。
「ま、まぁ折角貰ったことですし、とりあえず見てみましょうか」
「ん、そうか」
ビデオデッキがスタンバイされる。
「実際に働いている人たちのインタビューを中心とした内容らしいですね……っと。それじゃ再生しまーす」
再生ボタン、ぽちっとな。
『全国58000人のロリコン予備軍の皆さんこんにちは! 楽しい高校生活を過ごしていますか?』
「ぶほっ!!」
画面に映る若い女性の口から出てきたいささか教育現場には相応しくないセリフに、二人の教師は一斉に飲んでいたコーヒーを吹き出した。
『さて皆さんも、そろそろ将来の夢や希望について具体的に考え始める時期ですね。
どうすれば皆さんの大好きなちっちゃな女の子たちと戯れる生活を送ることができるのでしょうか。
その夢を実現する方法は、何も保育士や学校の先生になることだけではありません。
今日は皆さんに新たな選択肢を提供するため、
第一線で活躍されている先輩方の活躍を紹介していきたいと思います。
これからの約30分、是非集中して見てくださいね〜』
そして軽快なBGMと共に、画面中央に大きく現れる番組タイトル
【夢を掴め! 若者仕事図鑑(ロリコン編)】
「な、何だこのビデオ……」
「これ、絶対教材じゃねえだろ」
「……停止(と)めますか?」
「……いや」
リモコンを手にする上甲に対し、薮中はゆっくりと首を振った。
「何かある種の怖いもの見たさだけどさ、とりあえず全部見てみようか」
「って、何で部屋の鍵しめてるんですか」
「いや、内容が内容なだけに、急に入ってきた生徒とかに見られたら拙いだろ。……番組内容以上に見ている俺たちが」
「……俺、出て行っていいですか?」
と言いつつも、内容が気にならないと言えば嘘になる。
「ホント、先輩と同じで怖いもの見たさなんだ、俺は決してロリコンじゃないんだ」と
誰に当てたでもない言い訳を心の中で繰り返しながら、上甲はゆっくりと席に戻った。
『それでは、最初のロリコンさんにお話を伺ってみましょう〜』
二人きりの進路指導室に、女性司会者のやたら甲高い声が響き渡っていた。
−廃人たちの選択−
『まず最初の夢を掴んだロリコンさんは、東京都在住の田中さん(仮名)25歳でーす』
『こんにちは』
画面袖から、上は白のポロシャツ、下は黒いスラックスといった姿の真面目そうな男が登場してきた。
男は司会者の女性と一切目を合わすことなく、用意されていた席に早々と腰を下ろした。
『それではズバリお聞きします、田中さん、あなたのご職業はなんですか?』
『ハイ、幼稚園バスの運転手です』
「バスの運転手ではなくて、『幼稚園バス』で特定なのね」
「……」
突っ込む上甲、無言の薮中。
『幼稚園バスというと、あの園児たちの送迎用車両のことですか。
なるほどー、乗客の95%が6歳未満という子供好きドライバーには堪らない乗り物ですよねー』
『ハイ、堪んないッス』
『でも、幼稚園の子供たちと触れ合う仕事の代表格といえば、もちろん保育士ですよね?
一緒にいられる時間も明らかに向こうの方が長いのに、
田中さんはどうして運転手の方を選んだのですか?』
『ハイ、僕、確かにちっちゃい娘が大好きなんですけど、
どうしても園児の半分は男子になってしまうじゃないですか。
僕、男のガキは大ッ嫌いなんですよね。
保育士になると、どうしても男も女の子も平等に扱わなきゃいけないじゃないですか。
それが嫌で保育士にはならなかったんです』
『え、だけど幼稚園バスの運転手でも、乗客の半分は男の子ですよね?』
『ハイ、でも運転手なら多少差別的に扱っても文句は言われませんからね。
現に僕、女の子が乗り降りする時は物凄いにこやかな顔で挨拶とかするんですけど、
男のガキの時は何を言われようと一切無視してますからね。むしろ睨んでますし』
『うわぁー、出ましたダメ人間発言』
『それに僕、基本的に子供の世話をするのも大ッ嫌いですからね。
幼女はあくまでも見て愛でるもの。保母さんみたいに四六時中世話なんか焼いてられるかってんだ』
「コイツ、人間としてダメだと思う……」
「……」
突っ込む上甲、無言の薮中。
『この仕事をやっていて一番辛いことは何ですか?』
『ハイ、子供たちを全員降ろし終わった後、幼稚園に戻るまでの道中に
背後から突き刺さる年増の保母からの冷たい視線ですね。
アイツ明らかに僕を危険人物視してますよ。
おかげで20歳以上の女性と目を合わすことが怖くて出来なくなりましたよ』
『なるほどー、田中さんの中での年増の基準は20歳なんですかー
だから今の今まで私の顔を一切見てくれないのですね。アハハハハー』
『そうなんですよ、アハハハハー』
顔を一切上げずに乾いた笑い声を挙げる田中氏(仮名)の姿は、どこからどう見ても危険人物そのものであった。
『それでは田中さん、これからもお仕事頑張ってくださいね。
本日はお忙しい中、どうもありがとうございました〜』
田中氏(仮名)が画面外へ捌けていったのを確認したところで、上甲はビデオを一時停止させた。
「おい、何故止める」
「い、いや……これ、明らかに拙いビデオじゃないですか。これ以上見るのはちょっと……」
「何を言うか上甲先生。こういった有害映像から生徒たちを守るのが我々教職員の役割じゃないか。そのためにはまず、問題となるビデオがどのようなものか一通り確認する必要があるわけで、どんなに酷い内容だろうが、我慢してでも全部見ておく必要があるのだよ」
「は、はぁ……」
いつに無く真剣な表情で語る薮中に圧倒される形で、上甲も視聴を続けることにしぶしぶ合意する。
そして一呼吸置いた後、薮中先生が言うところの『教材用ビデオ検閲会』が再開された。
『さて二人目のロリコンさんは、神奈川県在住の山田さん(仮名)21歳の方ですー』
『ども、こんちわっす』
続いて画面に登場してきたのは、TシャツにGパンという若者らしい格好をした、
一見ロリコンとは思えない背の高い男であった。
『それでは山田さん、あなたのご職業は一体何ですか?』
『はい、山田太郎21歳、近所のスーパーマーケットで商品補充のバイトやってます』
「え、フリーター?」
『スーパーでのバイトとちっちゃい女の子との因果関係が今ひとつ見えてこないんですが、
具体的にどういうことなのか、ご説明願えますか?』
『んー、何て言いますかねー、商品補充って言っても俺が主にやってるのは、
子供たちが群がるお菓子売り場の補充なんですよね。つかそこしかやってないし』
『しかし1つの売り場に固定だなんて、普通は不可能じゃないんですか?』
『まぁあんまり大っぴらにするなって言われてるですけどね、
そのスーパーの経営者が俺の親父なんですよ
なのでどんな我侭でもすんなり通してくれる。最高の職場ですよーアハハハハ』
『ロリコン坊ちゃまの要望も叶えてくれるなんて、お父様は心が広いのですねー』
バキッ
「や、薮中先生……?」
画面に映るドラ息子の発言に、薮中は片手で回していたボールペンを真っ二つにへし折った。
「……俺、こういう腐れボンボン大ッ嫌いなんだよ。冗談抜きで死ねばいいのにと思う」
「な、ならもうビデオ止めますか?」
「それとこれとは話が別だ」
「……」
『それでは具体的に、そのお菓子売り場でどのようにして女の子たちと親睦を図っているんですか?』
『えーとですねー、俺も基本的にはさっきの田中さんと同じで、見て愛でるだけですねー
あ、でも陳列してる時とかに女の子が近くによってきた時には、
こっそりお菓子をプレゼントして素敵なおにいさんアピールを心がけているんですよ。
その時に言われる『ありがとう、おにいちゃん』のセリフが、明日の仕事への活力になるんです』
「いや、それ教育的に物凄い間違ってるから」
「どうせ親の力で全て無かったことにさせてるんだろ。死ね脛かじりが」
珍しく二人同時にドラ息子への突っ込みが入る。
まぁ薮中の呟きは突っ込みというよりは憎悪の念であるが。
『でもその親たちが空気を読めん輩ばかりでねー、困りますって商品を返してくるんですよ。
俺はその度に、いやいやお代など必要ありません、
娘さんの可愛らしい笑顔を見せて頂いたせめてものお礼ですよと答えるんだけどね、
まるで汚物でも見るかのような表情を残して逃げるように去っていくんですよ。
そうそう、ちょうど今の貴女が見せてるような表情です。何ででしょうねー?』
『それが分からない以上、お母様方はこれからも同じような反応を繰り返すでしょうね』
『ハハハ、まぁいいや。今度親父が玩具屋の経営にも乗り出すみたいなので、
今度はそこの店員をやらせてもらいますよ。その方がより女の子が集まってくるから』
『最後の最後まで放蕩息子発言を繰り返して下さいましたね。山田さんありがとうございましたー』
ガタンッ
「せ、先生、落ち着いてッ!!」
手に持った赤本をテレビに投げつけようとする薮中を慌てて取り押さえる上甲。
「気持ちは分かります、でもテレビは壊さないでください! ビデオを止めればいいだけの話ですからっ」
「なら仕方ねぇな」
ビデオを止めると聞いたとたん、薮中は大人しく自分の席へと戻っていった。
「あ……いや、それでも見るのは止めないんですね」
決して口には出せないが、上甲は心の中でこう呟いた。
そんなに見たいか、このビデオ。
『それでは3人目のロリコンさんに登場してもらいましょう。どうぞ〜』
そして画面には、一目見ただけでその職業がすぐ分かる格好の男が現れた。
『佐藤太郎(仮名)31歳。都内の某大学病院で小児科を担当しております』
「出たよ、真打ち・小児科医」
「え、真打ち?」
「……」
「いや、薮中先生? 真打ちって何がですか?」
その後上甲がいくら尋ねようとも、薮中は決して質問に答えようとしない。
そうこうしている間にも、白衣の男と司会者の対談は恙無く進行していた。
『もはや質問するまでもないとは思いますけど、佐藤さんは小児科医として
どのように女の子たちと触れ合っているのですか?』
『やはりメインは診療の場ですね。自分の大好きな子供たちを病気の苦しみから救ってあげる、
子供好きとしてこれほどの喜びはありませんよ。
先ほどの『基本的に子供の世話は嫌い』とか言っていた方、どなたでしたっけ?
ロリコンの風上にも置けない腐れ外道ですね、アイツは』
「うん、流石は医者先生、仰ることが全く違うな」
「まぁそれはそうなんですけど、後で出演者同士が揉めてないかどうか、それが心配ですね……」
加えて所々で毒を吐く女司会者も、収録後に大変なことになっていないか気になって仕方が無い上甲。
どんな場面でも全く笑顔を崩さない辺り、余程のことが無い限り大丈夫だとは思われるが。
『大好きな子供たちを救うために小児科医になられたという、
まさにロリコンの鑑とも言える佐藤先生。
そんな先生にも大きな悩みがあるとお聞きしたのですが?』
『えぇ。私が医者である以上、避けては通れない悩みではあるんですが……』
そう言って声のトーンを落とす佐藤医師。
出し尽くした努力、救えなかった命。
これから来るだろう重い展開の話に備え、上甲は大きく一度息を呑んだ。
が。
『あの、聴診器を当てる時に女の子が着てる服をたくし上げて胸を見せるじゃないですか。
ロリコン仲間は役得だって言うんですけどね、決してそんなこと無いですよ。むしろ生殺し。
医者である以上、患者に対して変な気を抱くことは絶対にあってはならないことなんですけどね、
元来どうしようもない幼女スキーな僕にとっては、その我慢がどれほど辛いことか』
『まぁ、手を出してしまえばそこで人間終了ですからね』
『それでも溜まっていくリビドーは、診察の様子を思い出しながら毎晩発散しているんですけどね』
「うわぁ」
一瞬でもこの男を真人間だと判断した自分が恥ずかしい。
この腐れ医師の発言に、上甲は得も言われぬ失望感を隠しきれないでいた。
『更に佐藤先生は誰にも真似できないとんでもない特技をお持ちだそうで』
『まぁ特技と呼べるものでもないんですがね。
毎晩毎晩ナニしてたおかげで無駄に想像力が高められまして、
最近では胸部レントゲン写真をオカズにすることもできるようになってしまったんですよ。
ま、哀しい特技ですけどねアハハハハ』
『……』
このどうしようもないど変態発言に、流石の司会者もついに鉄壁の笑顔を歪ませてしまった。
それは画面の外の上甲も同じ。しかし薮中の表情は全く変わっていない。
「……薮中先生?」
「ん、なんだ?」
「あ、いや……何でもありません」
画面の向こうでは笑顔を取り戻した司会者が、にこやかに佐藤医師を見送っている。
しかし上甲の目にその笑顔は、明らかに引きつっているようにしか映らないのであった。
『それでは最後のロリコンさんに登場していただきましょう。どうぞ〜』
『こんにちは』
4人目のロリコンとして画面に現れたのは、上下スーツの気の良さそうな男。
名前は鈴木太郎(仮名)、年齢は27歳だという。
『早速ですが、鈴木さんのご職業をお教えください』
『準大手の総合商社で営業の仕事に就いています』
『というと、普通の会社員ということですか。
全く女の子たちとの接点が見えてこないお仕事ですけど?』
『えぇ。仕事上で幼女と戯れる機会は一切ありませんね。
だけど、それとは別の場所で、僕はロリコンとしての夢を叶えることができました』
『別の場所、ですか?』
『僕の前に登場された方々は、幸運にも仕事の場で女の子たちと触れ合うことに成功しています。
だけどバスの運転手にしろお菓子売り場店員にしろ、なろうと思っても
簡単になれる仕事ではありません。小児科医なんてその典型ですね。
だから僕は、特別な職業についていなくても、幼女と戯れる方法はあるんだよということを
紹介するために、今回のインタビューに応じることにしたんです』
ずいっ
思わず身を乗り出して鈴木氏の発言に全神経を集中させる薮中。
今までの言動から、何となくそうではないかと疑念は抱いていたのだが、
その姿を見て上甲は、薮中のクロを確信するのであった。
『ビデオの趣旨からは若干外れるような気もするんですが、まぁいいでしょう。
では鈴木さん、あなたが女の子たちと触れ合える場所はどこなんですか?』
『それは自宅です。家で私の帰りを待っている、3人の娘たちと戯れるのです』
『え……、それは鈴木さんご自身のお子さまですか?』
『もちろん。うちの家内が生んだ、正真正銘私の子です』
『まぁ、自分の子供相手ならどんなに触れ回ろうとも合法ですからね』
「あぁん? つまり結婚こそ人生最大の幸せとでも言いたいのかこの男は?」
毒づく薮中(29歳独身)。
『でも鈴木さんの場合は3人のお子さま全員が女の子だからいいものの、
男のお子さましか生まれない場合だってあると思うんですよ。
そういう場合はどうなさるんですか?』
『その前に1つ、私の子供は3人じゃありませんよ。
長男から四男まで合わせて7人います』
『え?』
ここまでの話し振りから子供は娘しかいないものだと思い込んでいた上甲と薮中も、女性司会者同様に驚きの表情を見せた。
『だけど私が面倒を見るのは3人の可愛い娘たちだけ。男どもは嫁が養っています』
『え、それは一体どういう意味で……』
『私の嫁はね、ショタコンなんですよ』
その後鈴木氏は、全くもって親のエゴだけが押し通った鈴木家の家庭形態について語り始めた。
『私たち夫婦は、本当に生殖機能を活用するためだけの関係です。
そして生まれてくる子供は、男だった場合は妻が、女だった場合は私が引き取り、
戸籍上は一つ屋根の下の家庭なんですけど、お互い全く干渉せずに育てていくんです。
妻も働いて給料を貰っていますので、戸籍上は一つ屋根の下ですけど、
その中で二つの完全に独立した世帯が生活しているという感じになりますね。
あ、子供たちは普通に2つの世帯を行き来してますよ。でもそれは兄弟関係というよりは、
仲の良いお友達のような関係で過ごさせるように、互いの家庭で教育してあります』
『はぁ……』
『妻は妻で息子たちを目一杯可愛がり、私は私で娘たちと心行くまで戯れる。
私たち夫婦に愛だの恋だのそんなものは一切ありませんよ。あるのは定期的な夜の営みだけ。
結婚する時の条件として、お互い話し合って決めたことですので何の不満もありませんよ』
今まで出てきた四人の中で最も無茶苦茶な廃人発言に、進路指導室内に衝撃が走った。
「うわぁ」という呟きと共に、露骨に嫌悪感を表明する上甲。
またその隣では、あのロリコンである薮中ですら無言でプルプルと震えていた。
『ですから世のロリコン諸君、ショタコンの嫁を貰えば人生薔薇色ですよ〜』
『……でも、医師国家試験に合格するより、
ショタコンの嫁を見つける方がよっぽど難しいと思いますよ』
『まぁそれは確かにね。そういう属性の方を見つけるだけならまだ容易いですけど、
そこから今後の人生設計について説得して求婚しなければなりませんからね。
ま、仕事も恋も努力無しには実らないんです。皆さん、努力を忘れずにッ』
『鈴木さんの場合、そこに恋は存在しないですけどね』
『あ、そうだった。アハハハハー!!』
その爽やかさが鼻に付く笑いをスタジオに残したまま、鈴木は画面の外へと捌けていった。
「お、終わったぁ……」
今後の人生において決して何の役にも立たない30分が過ぎ去り、
上甲は椅子に座ったまま大きく身体を伸ばした。
「こんな内容のビデオ、生徒には絶対見せられませんね。まぁその点は事前に確認できて良かったのかも知れませんが……って、アレ?」
その時になって初めて上甲は、隣にいた薮中の姿がなくなっていることに気が付いた。
そしてテーブルの上には一通の白い封筒。その表面には、大きく二文字の漢字が書かれてある。
「じ……辞表って」
更にその下には、上甲に当てたと思われる小さなメモが置かれていた。
【嫁探しの旅に出ます。探さないでください】
「……何で小学校の教員目指さなかったんですか、薮中先生」
一人きりになった進路指導室内には、女性司会者の爽やかな締め言葉が響き渡っていた。
『というわけで全国のロリコンの皆さんも、
今日出てきました諸先輩方のように、ギリギリ法に触れない小児性愛生活をおくりましょうね。
それではさようなら〜』